「―――…ねえ」
幼い少女の声。
揺れる緑の空。
「――…アタシは、なんで、生きてるんだろ」
空は少女の、二つの瞳で。
空が濡れて。
溢れて。
雨になって。
黙りこんだ彼女を横目に、僕は窓の外を見た。
思った通り、教会の外は凄まじい豪雨に見舞われていた。
未だ、梅雨入り前だというのに。
この建物は小高い丘に在るらしく、荒んだ都市を一望できる。
そこに色といった色は無く、敢えて表現するのならば『灰色』、だった。
そう、唯在るのはこの灰色の都市だけ……
「――…なんで、アナタは、生きているの?」
「え、僕?」
不意に訊かれて、彼女――『アグリッタ』と名乗った少女の方を向く。
相変わらず、ソッポ向きながら喋っているようだ。
その小さな背中に話しかける。
「僕はね、そうだなぁ」
「――焦らさないで」
「ハイハイ。僕は人間だからだよ」
ニンゲン?と言いたそうに、首を回そうとする。
しかし此方を向く気はやはり無いらしく、頭を垂れて俯く。
「僕は、人間。アグリッタは、そうじゃない。」
「――そっか」
「そうだよ」
はたから見たら、僕と彼女のコミュニケーションはただの喧嘩に見えるだろう。
僕はまた、外に視線を戻す。
「――アグリッタ」
「うん?」
「――アグリッタって、長い」
「そうだね…キミの名前だったね」
そう返しながら、自分の脚を見下ろす。
彼女のライフルで撃たれた箇所には、既に包帯やらトイレットペーパーやらが
しっかりと幾重にも巻きつけられ、止血されている。
撃った本人、アグリッタが処置してくれたのだ。
理由は、解らない。
彼女はその時『アタシの、名前、アグリッタなの。アグリッタ・ヘイト。』と、名乗ったのだ。
「――アタシ、長い間、呼ばれたことなかったから」
「そう」
「――"アグリ"って、呼んで」
「解った。…アグリ」
「――ウン、それでいい」
アグリは脚をブラブラさせている。
それを見ていると、出かける前、玄関までお見送りしにきた愛犬パグの尻尾を思い出す。
あいつは、もう居ない。
僕の家もどうなったことか。
昨晩喧嘩した両親、煙草を咥えながら廊下を歩いていた部活のセンパイ、別れたカノジョ。
今ではもう、感覚すら麻痺している。
右足の傷口だけが脈を打って、その痛みだけが僕を支えているんだ。
世界に、欺かれた都市。
アグリはそう呼んでいた。
――…ねえ、クロイ。ちゃんと生きてる?
ああ、生きてる生きてる。
――やっぱり、死んでいるわ
大きな十字架を傾けた教会に、声が響いていた。
キミには、関係ないことだろう。
――…そう、ね。
笑った。
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