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用語集

≪長編小説≫

灰色庭園ハイイロテイエン
0:プロローグ
1:少女の空
2:存在定義
3:誰かの声
4:消した記憶
5:最上階-鐘
6:鐘と夢
7:時と音と声
8:メゾ・ピアノ
9:嵐の翌朝
10:リアリティ
11:傾いた眼
12:横断携帯
...

  # 第一話 『少女の空』
「―――…ねえ」

 幼い少女の声。
 揺れる緑の空。

「――…アタシは、なんで、生きてるんだろ」

 空は少女の、二つの瞳で。
 空が濡れて。
 溢れて。
 雨になって。

黙りこんだ彼女を横目に、僕は窓の外を見た。
思った通り、教会の外は凄まじい豪雨に見舞われていた。
未だ、梅雨入り前だというのに。

この建物は小高い丘に在るらしく、荒んだ都市を一望できる。
そこに色といった色は無く、敢えて表現するのならば『灰色』、だった。
そう、唯在るのはこの灰色の都市だけ……

「――…なんで、アナタは、生きているの?」
「え、僕?」

不意に訊かれて、彼女――『アグリッタ』と名乗った少女の方を向く。
相変わらず、ソッポ向きながら喋っているようだ。
その小さな背中に話しかける。

「僕はね、そうだなぁ」
「――焦らさないで」
「ハイハイ。僕は人間だからだよ」

ニンゲン?と言いたそうに、首を回そうとする。
しかし此方を向く気はやはり無いらしく、頭を垂れて俯く。

「僕は、人間。アグリッタは、そうじゃない。」
「――そっか」
「そうだよ」

はたから見たら、僕と彼女のコミュニケーションはただの喧嘩に見えるだろう。
僕はまた、外に視線を戻す。

「――アグリッタ」
「うん?」
「――アグリッタって、長い」
「そうだね…キミの名前だったね」

そう返しながら、自分の脚を見下ろす。
彼女のライフルで撃たれた箇所には、既に包帯やらトイレットペーパーやらが
しっかりと幾重にも巻きつけられ、止血されている。
撃った本人、アグリッタが処置してくれたのだ。
理由は、解らない。
彼女はその時『アタシの、名前、アグリッタなの。アグリッタ・ヘイト。』と、名乗ったのだ。

「――アタシ、長い間、呼ばれたことなかったから」
「そう」
「――"アグリ"って、呼んで」
「解った。…アグリ」
「――ウン、それでいい」

アグリは脚をブラブラさせている。
それを見ていると、出かける前、玄関までお見送りしにきた愛犬パグの尻尾を思い出す。
あいつは、もう居ない。
僕の家もどうなったことか。
昨晩喧嘩した両親、煙草を咥えながら廊下を歩いていた部活のセンパイ、別れたカノジョ。
今ではもう、感覚すら麻痺している。
右足の傷口だけが脈を打って、その痛みだけが僕を支えているんだ。

世界に、欺かれた都市。
アグリはそう呼んでいた。

――…ねえ、クロイ。ちゃんと生きてる?
ああ、生きてる生きてる。
――やっぱり、死んでいるわ

大きな十字架を傾けた教会に、声が響いていた。

キミには、関係ないことだろう。
――…そう、ね。

笑った。







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